「ねえ、」
ピアノ線の様に張り詰めた空気を、湿った息と不穏な言葉が揺らす。
「ねえ、手、繋いでも良い、」
解っている。そんな下らない事、訊いたって、応えてなんかくれやしない。
彼は無愛想の域を超えていると、付き合った当初から感じていた。
暫くする内に慣れて仕舞っている自分が居たが、時折、無性に虚しくなる。
其れでも泣いたり哀願したりだとか、そんな無様な事はしなかった。
そう思い込まないと此処までやって来れなかったと思うし、彼の考え方とか価値観とかが私の中の世界を尽く壊してしまったから、其れらは案外容易に受け容れられた。
でも矢張り、時々、云いたくて堪らなくなるのは、彼を好きな証拠なのかなあとかぼんやりと考える。
冬の寒さは其処此処で、あらゆるものを凍らせて行く。
ふと、昔彼が呟いた言葉を思い出した。あらゆるものを、凍らせる。
其の中に、あなたの心もあるのですか。若し万が一そうならば、私は…――。
其処まで思って、思考を遮る。まさか、そんな事があって良い筈が無い。
街路樹は淫らに裸になって行く。そうして三日月の夜には其のか細い腕の間から光を零すのだろう。其れは、酷く、私の様で哀しくなる。
「…――、」
「……何か云った、」
「何も、何も云ってないよ、」
頭を振って、口の端を無理矢理持ち上げて、冷たい風を切って歩き出す。彼も、一歩遅れて着いて来る。
哀しいのは、風の所為じゃない。
美しいのは、冬の所為じゃないんだと、確信した。


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此の儘全て凍ってしまえば良い。そうすれば、彼も私も一生此の儘、近付く事も離れる事も出来ないで、冷たくなって、美しい儘で。